研究発表要旨

No. 1
 氏 名 
福西敏文
 所 属 
大阪市立大学大学院 創造都市研究科
発表題目
学校図書館法公布以前の特別支援教育学校における学校図書館建設運動:1950年春から1953年秋
発表要旨
(1)研究目的
  本研究の目的は、1953年8月の学校図書館法公布以前の特別支援学校における学校図書館建設運動の実態を明らかにすることである。特別支援教育学校の学校図書館研究の先行論文では、2003年以降の野口武悟氏の諸論文が重要であるが、この分野の本格的な研究はまだ緒に就いたばかりである。特に歴史的な研究では、新たな資料の発掘にも努めながら研究を進める必要があると考える。そこで本研究では、従来取り上げられることのなかった「盲学生点字図書館建設『愛の鉛筆』運動」関係の資料を考察し、これまで知られていなかった1950年春から1953年秋までの盲学校図書館建設運動の実態と特徴の解明に努める。
  なお、『愛の鉛筆』運動とは、特別支援学校教員らが一企業の協力を得て鉛筆販売に取り組み、その純益をもって学校図書館の蔵書や施設建設等の費用に充てようとした運動である。現時点では、1950年5月から1953年秋頃にかけて二府十県で展開され、盲学校図書館や点字図書館の建設を実現させた県のあったことを明らかにした。ただし、運動の規模と成果が顕著であるにもかかわらず、今ではこの運動について知る人は特別支援教育関係者の中でも希で、いわば忘れられた学校図書館建設運動である。

(2)研究の方法
(1)  新たに発見した盲学生点字図書館建設『愛の鉛筆』運動に関する資料の考察を中心に研究を進めた。新資料の第一は、『愛の鉛筆』運 動に貢献した企業が1951年と1952年に発行した冊子、「『愛の鉛筆』運動経過参考資料」である。第二は、『愛の鉛筆』運動推進に関 わった盲学校関係者、当時製作した謄写資料、その他である。
(2)  考察にあたり、この時期の学校図書館法制定運動の中心を担った全国SLAの活動、特別支援教育、点字図書館づくりに関する諸施策や 思潮にも注意をはらった。

(3)予想される成果
(1)  本研究によって、学校図書館法公布以前の特別支援教育学校(盲学校等)図書館建設の取り組みをはじめて明らかにし、学校図書館史と特別支援教育史等の空白を埋めることできると考える。
(2)  企業をも参加した学校図書館建設運動である点に注目し考察を深めることで、今後の学校図書館研究に貴重な示唆をえられるものと予想をしている。  
No. 2
 氏 名 
前川由実子、北克一
 所 属 
前川由実子(大阪市立大学大学院創造都市研究科修士課程)
北克一(大阪市立大学)
発表題目
国立情報学研究所NACSIS-CATにおける書誌レコード調整の記録分析とその類型化
発表要旨
(1) 研究目的
  国立情報学研究所が運営するNACSIS-CATは、全国大学等を中心とする書誌ユーティリティとして、全国学術情報流通の情報基盤としてその位置を確立している。2006年度末の接続館数は1,145館、累積所蔵登録件数は約8,295万件に達する巨大データベースである。しかし、接続館の増加及び書誌等の蓄積増大に比例して、書誌レコード調整の増加、調整内容の変容が生じている。
  本研究は、中規模大学図書館における書誌レコード調整の記録を実証的に分析し、その類型化を行うことで、レコード調整の必要性が発生する原因を究明し、その解決策を模索するものである。

(2) 研究方法
  中規模大学図書館における書誌レコード調整の記録を、次の大枠において類型化を行い、さらに各フィールド単位にて詳細に分析・検討をした。
    書誌レコード調整の分析
  ・書誌レコード調整の発生件数と原因区分
・・目録作成者の不注意(ケアレスミス)
・・NACSIS-CAT入力規則の不理解・誤解
・・ 機能論的処理規則によるレコード調整
・・ 必須のレコード調整
・・規則未決定・不備
・・ 原因不明分
  併せて、NIIにおける品質向上への努力として、「書誌ユーティリティ課題検討プロジェクト『書誌ユーティリティ課題検討プロジェクト最終報告』(平成17年10月)、「 NACSIS-CATレコード調整方式検討ワーキング・グループ『NACSIS-CATレコード調整方式検討ワーキング・グループ報告書』(平成18年3月)、「NACSIS-CAT講習会等検討ワーキング・グループ『NACSIS-CAT講習会等検討ワーキング・グループ中間報告書』(平成18年3月)及び「NACSIS-CAT/ILL業務分析表」を検討し、そこでの提案について、先のレコード調整の記録と比較・検討することで、各種提案の類型別評価を行い、その有効性を検討した。

(3)得られた(予想される)成果
  以上の考察に基づいて、「提案への提案」を行いたい。主な「提案」事項は次である。
1.いわゆるホワイト・ライブラリーに対する図書館規模をも考慮した表彰制度の創設。
2.NII研修、または、e-Learningにおいて盛り込むべき「目録講習」のコンパクトな中身の整理。(これは、書誌レコード調整で、なにが問題なのかということの裏返しである)
3.新規参加館には理解が困難な過去の「遺産書誌」の遡及整理。

No. 3
 氏 名 
依田紀久、湯浅俊彦、北克一
 所 属 
依田紀久(国立国会図書館関西館 事業部図書館協力課)
湯浅俊彦(旭屋書店外商部)
北克一(大阪市立大学大学院創造都市研究科・学術総合センター)
発表題目
日本の出版業界における電子タグ実証実験の動向
発表要旨
1.研究目的
  出版物に電子タグを装着することによって出版流通の合理化を図ろうとする試みが、日本の出版業界において始まっている。電子タグはICタグ、無線タグ、非接触ICタグ、電子荷札、RFID(Radio Frequency Identification)タグなど、さまざまな呼び方があり、電波を利用することで、接触することなく読み書きすることや、複数個のタグの情報を同時に読み取ることが可能である(。本発表では出版業界における電子タグ導入の経緯および実証実験の結果を検証し、第2に図書コードを背景とした出版流通合理化の歴史的展開の中に電子タグ問題を位置づけ、プライバシー問題など解決すべき問題点を視野に入れつつ考察を行う。

2.研究方法
  日本の出版業界では2003年度より2006年度まで日本出版インフラセンターを中心に経済産業省の委託業務として出版電子タグ実証実験を行っている。これまでの実証実験の成果をもとに考察を行なう。

3.得られた成果
  電子タグによる出版流通合理化は、縮小傾向にある書籍市場を活性化させる有効な手段となりうる。オンライン書店が購入されなかった書籍でもクリックされた回数をカウントしているように、書店店頭において読者がどの本を触ったかが分かるタッチログによってさらに細やかな棚管理ができる。また、読者がタグリーダーに本をかざすことによって書籍の試読などの読者サービスを提供できる。さらに、出版業界の懸案であった責任販売制(買切制)や客注品追跡流通など取引と流通の合理化をもたらすことができる。すなわち電子タグの導入がリアル書店の快適さをもたらし書籍市場の活性化をもたらすことが予想される。しかし、その一方でプライバシー問題など解決すべき問題点があることも明らかになった。
No. 4
 氏 名 
北克一、湯浅俊彦
 所 属 
北克一(大阪市立大学大学院創造都市研究科)
湯浅俊彦(旭屋書店外商部)
発表題目
出版物へのISBN(国際標準図書番号)表示に関する歴史的考察:出版流通対策協議会の対応を中心に
発表要旨
1.研究目的
  日本で出版される書籍にISBN(国際標準図書番号)が表示されるようになったのは1981年1月からである。正確に言えばISBNをキーコードとする「日本図書コード」が導入されたのである。日本図書コードとは,10桁のISBN,「販売対象」「発行形態」「内容」を示すCコードと呼ばれる4桁の図書分類コード,価格によって成るコード体系である。すなわち日本図書コード=ISBN+図書分類コード+価格コードであり,ISBN=国別記号+出版者記号+書名記号+チェックデジット(チェック数字)によって構成されている。
  この日本図書コード導入に際しては、出版流通対策協議会(流対協)による反対運動が展開された。流対協は割り当てられた出版者コードの受け取りを拒否し、ISBNの表示を1992年まで保留したのである。本発表は、ISBN表示に関する歴史的考察を通して、日本の出版社における書誌情報・物流情報に対する意識の変化を検証する試みである。

2.研究方法
  1981年1月のISBN導入時から1992年に流対協がISBN表示保留を解除するまで、並びに2005年からのISBN13桁化や商品基本情報センターの設立の経過およびその背景を、『流対協ニュース』や声明など原資料の分析を通して明らかにした。

3.得られた成果
  流対協による1992年のISBN表示の保留解除、さらに2005年の商品基本情報センターの設立への賛同などの大きな変化の背景には、次の2点の要因があることが検証できた。  
外在的要因としては1980年代に存在したコンピュータによる集中管理への危機感が薄れ、ISBN表示をしないと取次・書店の各場面において流通しにくくなるという現実問題に突き当たったことが挙げられる。また内在的要因としては、流対協加盟出版社の中で出版社が読者に向けて書誌情報を提供することの必要性が認識されてきたことであり、また、流対協新規加盟出版社の中には、すでにISBN表示を行っている社もあった点も大きい。
  このように、1980年代の流対協によるISBN表示問題運動は、25年の歳月を隔てて組織自体の変容をきたしていたことを実態解明の中で実証した。

No. 5
 氏 名 
米谷優子
 所 属 
非常勤講師 (関西大学、甲南高等学校・中学校ほか)
発表題目
子どもの読書活動推進計画に見る「読書」概念の分析と比較検証
発表要旨
1) 研究目的
  2001年12月に制定された「子どもの読書活動の推進に関する法律」は基本理念として、読書を「子どもが、言葉を学び、感性を磨き、表現力を高め、創造力を豊かなものにし、人生をより深く生きる力を身に付けていく上で欠くことのできないもの」とした。これは、国の「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」でもそのまま取り入れられ、「様々な情報メディアの発達・普及や子どもの生活環境の変化、さらには幼児期からの読書習慣の未形成などにより、子どもの「読書離れ」が指摘されている」とし、上のように定義される「読書」について「社会全体でその推進を図っていくことは極めて重要」であるとしている。
  現代社会において、獲得可能な情報は莫大な量となり、情報獲得の方法やメディアの種類は多様化している。情報流通量センサスの分析から「文字情報」は成長しているともいわれる。また、1970年代以後上昇傾向であった不読者の割合が21世紀になって減少傾向に転じ、小中高生とも1ヶ月の読書冊数は上昇の傾向にあることを学校読書調査の結果は示している。このような情勢の中でなお「読書」活動推進の新たな施策を展開するなら、まず「読書」の定義や意義についての再点検が必要なのではないだろうか。「読書」を現代に即した形で再定義し、その意義についての共通理解を得たうえで、それに基づいて「読書」活動推進を図る必要があると思われる。
  発表では、現在国や自治体の施策として展開されつつある読書活動推進計画について、その推進すべきとされる「読書」の捉え方について比較検証を行う。これによって読書活動推進の施策の実効性についての検討材料を提供することを目的とするものである。

2)研究方法
  2006年10月までに策定された国及び自治体(都道府県、市区町村)の子ども読書活動推進計画から、計画策定の目的として掲げている「読書」の意義や、何をもって「読書活動」とするのか、についての記述を抽出、比較検証し、マニフェスト検証の観点からその「公約」の概念分析を行う。策定された国及び自治体のそれぞれの推進計画において「読書」をどのようなものと定義しているのか、その推進をどのように図ろうとするのか、各計画の記述を点検し、パターンとして類型化する。次に、各推進計画の類型群のそれぞれの推進計画についてロードマップ検証を行い、計画の実施内容、計画年度終了後の施策の評価方法とそのフィードバック等について検討する。

3)成果
  現代における読書の意義と方法についての考察を深め、文字情報の獲得と「読書」の関係などを含めて、現代生活に即した「読書」の定義に関する検証を行う。
  加えて、各自治体における計画実施内容とその評価方法などに関して、読書活動推進施策の評価をマニフェスト検証の観点から精査し、その実効性の検証可能性を問う。併せて、各自治体の政策「公約」の実態を検証し、それに対する検討視点・材料を提供し、実効性の高い自治体の読書活動推進計画策定・実施に向けての一助とする。

No. 6
 氏 名 
村上泰子、北克一
 所 属 
村上泰子(関西大学文学部)
北克一(大阪市立大学大学院創造都市研究科兼学術情報総合センター)
発表題目
大阪府立中之島図書館の利用に関するアンケート調査の分析
発表要旨
(1)研究目的
  終身雇用制度が崩れ社会の流動性が増したこと、インターネットを活用した新しい形態のビジネス立ち上げに注目が集まっていることなどを背景に、企業に雇用されるだけでなく、自分自身でビジネスを立ち上げるニーズを持った人が増えた。中小規模の工場や商店を維持している人々も、絶えざる競争を勝ち抜いていくためには、新しい技術やトレンドに関した様々な情報が必要である。
  大阪府下は、古くより商業都市として栄えてきた大阪市、高い技術水準を持つ中小の工場の集まる東大阪市を抱え、ビジネス情報への潜在的ニーズが高いと予想される。特に大阪府立中之島図書館はこのようなた大阪のビジネス中心地に位置している。大阪府立中之島図書館とは別に中央館を東大阪に持っているが、中之島図書館は、中央館とは異なるサービスを展開すべく、その立地条件を活かし、2004年にビジネス支援に特化したサービスを開始した。またもうひとつの柱として、大阪資料・古典籍サービスも展開している。
  中之島図書館は、これまでに、サービス開始前の2002年と開始直後の2004年に利用者に対してアンケート調査を実施した。今回は、前回調査から2年が経過し、3回目の調査である。
  調査には、中之島図書館のサービスの柱である「ビジネス支援」と「大阪資料・古典籍」の両方が含まれているが、われわれの関心は、このうち主として「ビジネス支援」サービスがどの程度利用者に認知され、また満足度を得ているか、などの点を明らかにすることにある。これを、2年前の結果との比較し、分析を行う。
  さらに今回調査の結果について、利用者の属性、利用実態、要望、満足度などの間でクロス分析を実施する。

(2)研究方法
  2006年9月25日から9月30日までの6日間、大阪府立中之島図書館の利用者に調査票を配布し、アンケート調査を実施した。調査票は入館時に直接手渡しする方法を採った。調査票の作成に当たっては、前回調査との比較が可能なよう、可能な範囲で共通性を確保した。
  質問項目は、回答者の属性、来館目的等、ビジネス支援サービスの利用実態と要望事項、大阪資料・古典籍サービスに利用実態と要望事項、利用したサービスへの満足度、の5つで、合計21問であった。

(3)得られた(予想される)成果
  調査期間中に、昼間2035、夜間194の合計2229件の調査票が回収された。これは入館者数の約34%に当たる。大阪府立中之島図書館のビジネス支援サービスが開始されてすでに2年が経過しているにもかかわらず、その利用実態はビジネス資料室の閲覧利用等にとどまり、その多くのサービスが必ずしも十分に認知されているわけではないという結果が得られた。

No. 7
 氏 名 
榊原真奈美、野添篤毅
 所 属 
榊原真奈美(愛知淑徳大学大学院文学研究科図書館情報学専攻博士後期課程)
野添篤毅(愛知淑徳大学大学院文学研究科)
発表題目
ランダム化比較試験論文における利益相反と研究結果の偏りとの関連性
発表要旨
(1)研究目的
  近年、医学分野における臨床研究には政府・非営利団体・企業などによって莫大な研究費が助成されている。1980年の米国におけるバイ・ドール法をはじめとする様々な産業の活性化を図った法律により研究者は自身の研究によって利益を得ることが可能となっている。これらの背景から、研究者等が研究を支援された際にスポンサーや自身の各種利益を優先させることで、自らの責務に反し研究に不適切な影響を与える可能性を持つという利益相反(conflict of interest)の懸念が生まれてきた。
  このような状況を踏まえ、第54回本学会研究大会(2006年)の報告では企業による研究助成は、政府機関・非営利団体の研究助成より統計的有意差を持つ研究結果を公表しやすいか否かを分析した。その結果、資金提供者の種別と研究結果の統計的有意差の有無との間に関連性はみられなかった。そこで本研究では資金提供者の種別と研究結果のタイプとの関連性を明らかにすることを目的とした。調査は企業によって助成された研究はポジティブな結果を公表されやすいという仮説を、論文において公表されたアウトカム(ポジティブ・ネガティブ)について企業助成研究と政府助成研究とを比較することによって検証した。

(2)研究方法
  調査対象は前回報告した際に分析対象としたMEDLINEデータベースから検索されたランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial: RCT)論文データ、98件を利用した。分析対象論文からはそれぞれの研究の主な結果として、論文の抄録中に記載されている主なアウトカムに関する文章をすべて抽出した。抽出したアウトカムの例としては、RCTにおける介入群と対照群とを比較した場合において、治療効果の増加や副作用の減少等のポジティブなアウトカム、治療効果の減少や副作用の増加等のネガティブなアウトカム等がある。これらのアウトカムをポジティブとネガティブの2つのグループに分類した。その後、資金提供者の種別と研究のアウトカムのタイプとの関連性を検証するためカイ二乗検定を用いて統計的分析を行った。

(3)予想される成果
  資金提供に関する情報が記述されている医学分野のランダム化比較試験論文を対象に、資金提供者と公表された研究のアウトカム(ポジティブ・ネガティブ)との関連性を検証した。その結果、資金提供者の属性と公表されたアウトカムの属性との間には関連性はみられなかった(P<0.05)。

No. 8
 氏 名 
志茂淳子、北克一
 所 属 
志茂淳子(大阪市立大学大学院創造都市研究科都市情報学専攻)
北克一(大阪市立大学大学院創造都市研究科)
発表題目
看護師の情報収集行動における図書館利用
発表要旨
(1)研究目的
  日本における看護研究は、「看護師はみんな研究を行うべきだ」という方向で進められてきており、臨床現場で看護研究を行っている看護師が文献を求めて大学図書館を利用している実態がある。このような状況の中で、看護師の情報収集行動において困難さや挫折感があることが、看護師から度々報告されている。看護基礎教育の場である大学、短期大学、専門学校の図書館(室)の状況は、職員数や蔵書数、年間受入資料数、年間資料購入費には歴然とした差がある。そのような状況で看護基礎教育をそれぞれの環境で過ごした後、臨床現場では区別なく看護研究を行うことが求められているため、困難の背景の一つには、看護師の基礎教育の多様さと養成校の図書館(室)の整備状況の格差があげられると考える。看護基礎教育における図書館利用や、図書館による情報リテラシー教育の経験と、卒後の学歴別図書館利用実態との関連について調査し、報告する。

(2)研究方法
  2006年9月12日から同年10月6日にかけて、A大学病院に調査票回収時在籍していた正規看護職員(長期休暇中の者除く)を対象に質問紙調査を実施した。調査票の配布は看護部に委託し、調査票に趣旨説明を明記し、協力に同意が得られた場合に無記名で回答し、返信用封筒に入れて直接投函するか部署ごとの取りまとめ封筒による回収を依頼した。調査項目は、図書館利用状況、図書館サービスの認知度、看護情報収集行動の実際、文献検索の現状、文献検索講習会参加の有無、研究活動経験等をたずねた。看護師の学歴は、一般学歴と専門学歴という分類があるが、本研究では、図書館を中心に考えるため、図書館の分類に近い一般学歴を基本とし、学歴別の3群に分類し、図書館利用に関する調査項目との関連を分析した。

(3)得られた(予想される)成果
  看護師の研究に伴う文献検索において困難と感じる背景要因と考えられる学歴と、臨床現場における図書館利用の関係を検証した。その結果、学歴によって分けた群に応じて顕著な差を示し、A群(大学以上卒群)とB群(短期大学卒群)はC群(中学・高校卒群)に対して情報収集行動に伴う図書館利用や文献データベース利用に対する認知度や経験値が高かった。以上のことから、看護基礎教育機関における図書館の利用や情報リテラシー教育の実施の有無は、看護師の卒後の図書館利用に影響を与え、看護研究に困難さを感じさせる要因となることが示唆された。この結果から、看護基礎教育機関における図書館機能の強化や、臨床現場の図書館機能の強化及び情報リテラシー教育の必要性が求められると言えよう。

No. 9
 氏 名 
市古みどり
 所 属 
慶應義塾大学大学院文学研究科図書館・情報学専攻
発表題目
大学の情報リテラシー教育で実施可能な教育評価法
発表要旨
研究目的
  米国の大学図書館における情報リテラシー教育は、その教育が大学の使命と連動し、そのために大学で教育されるべき科目として大学全体の中で取り組まれることを目標に発展してきた。そのため、情報リテラシー教育を実施している図書館では、品質向上のためにアセスメントを実施し、その効果を社会に説明しようとしている。本研究の目的は、こうした米国での取り組みを踏まえ、日本における評価を実施するために、教育学における教育評価の基本となる概念を整理し、情報リテラシー教育の持つ性質と対比させることにより、現在考えられる実施可能な情報リテラシー教育の評価方法を整理することである。

研究方法
  1. 情報リテラシー教育の評価の概念設計を行うために、教育学における教育効果の評価に関する文献を調査し、現在の教育評価法の類型を整理する。
  2. 情報リテラシー教育の基本となる、米国大学図書館協会(ACRL)による「高等教育のための情報リテラシー能力基準」および「高等教育のための情報リテラシー能力基準:基準、パフォーマンス指標、成果」を中心に、情報リテラシー教育がいかなる性質や特質を持つかを明らかにする。
  3. 1.で整理した教育評価法の類型と2.で明らかにした情報リテラシー教育の性質・特質とをマトリクス上で対比させ、現在可能な情報リテラシー教育の評価方法を検討する。

予想される成果
  現在、大学図書館における情報リテラシー教育は、大学当局、大学図書館の管理者、大学の教員に対して、大学図書館員が行うべき役割としての説明が困難な状態である。その原因の一つは、情報リテラシー教育が大学教育の一環としてどの程度の意義と効果を持つものなのかが明確でないことにあると考える。そうであれば、評価方法を提示し評価を実践し結果を示し、教育内容の改善を継続に行うことができるシステムを作りあげることが望まれる。教育学における評価概念を文献から整理し、情報リテラシー教育の評価に適用することにより、理論的基盤に立ち、段階や内容に応じた評価方法までを含めた情報リテラシー単元モデルの構築の基礎とすることができる。
No. 10
 氏 名 
大庭一郎、桑原智美
 所 属 
大庭一郎(筑波大学大学院図書館情報メディア研究科)
桑原智美(筑波大学図書館情報専門学群)
発表題目
国立大学の図書館職員の採用試験問題の分析:国家公務員採用U種試験「図書館学」と国立大学法人等職員採用試験「事務系(図書)」を中心に
発表要旨
(1)研究目的
  大学図書館職員に求められる専門的知識については,従来,主に現職者を対象とした調査や議論が行われてきた。しかし,大学図書館職員の採用試験問題が未公開であることが多かったため,採用時点で求められる専門的知識については十分に検討されてこなかった。国立大学の図書館職員の採用試験問題は,長年未公開であったために,採用試験問題の分析は出来なかった。しかし,近年になって,国家公務員採用U種試験「図書館学」と国立大学法人等職員採用試験「事務系(図書)」の試験問題が公開されるようになった。
  そこで,本研究では,国立大学における図書館職員の採用試験の歴史,試験の概要をまとめた上で,国家公務員採用U種試験「図書館学」(以下,国U(図書館学)と略す)と国立大学法人等職員採用試験「事務系(図書)」(以下,国法(図書)と略す)の試験問題を分析し,採用時に国立大学の図書館職員に求められた専門的知識について分析・考察した。

(2)研究方法
  研究方法としては,文献調査,試験問題の分析調査,訪問調査を用いた。文献調査では,国立大学の図書館職員の採用試験に関する文献,および,公務員試験の問題作成に関する文献を網羅的に収集し,分析・整理した。試験問題の分析調査では,国U(図書館学)の7年分の試験問題(平成9−15年度)と国法(図書)の3年分の試験問題(平成16−18年度)を収集し,出題テーマや頻出キーワード等で分析した。さらに,訪問調査では,国U(図書館学)の試験専門委員を担当された大学図書館の関係者からお話をうかがった。

(3)得られた(予想される)成果
  研究の結果,以下のような事柄が明らかになった。
  ・国立大学の図書館職員の採用試験は,国立大学図書専門職員採用試験(1960−1963),国立学校図書専門職員採用試験(上級甲種・上級乙種・中級)(1964−1971),国家公務員採用試験「図書館学」(上級乙種・中級)(1972−1984),国家公務員採用U種試験「図書館学」(1985−2003),国立大学法人等職員採用試験「事務系(図書)」(2004−)と変遷してきた。
  ・国U(図書館学)の試験問題は,毎年,図書館情報学の研究者3名,大学図書館職員2名の計5名の試験専門委員によって,両者の知見を活かして作成されていた。また,人事院の担当者によって,良問になるように調整されていた。
  ・国U(図書館学)の7年間の試験問題を分析した結果,各領域から網羅的に出題されていること,レファレンス情報源や目録法に関するテーマの出題が多いこと,が明らかになった。
  ・国法(図書)の試験問題は,大学図書館職員によって作成されているが,問題作成者は公開されていない。国法(図書)の3年間の試験問題を分析した結果,目録法,分類法,レファレンスサービスに関するテーマの出題が多いこと,目録を記述したり,分類を付与する出題があること,図書館の実務に関連した出題があること,が明らかになった。
No. 11
 氏 名 
ユンユラ
 所 属 
筑波大学 図書館情報メディア研究科 博士後期課程
発表題目
在日韓国朝鮮人を対象とする多文化サービスの現状:図書館A、Bの事例研究を通して
発表要旨
(1) 研究目的
  本研究の目的は、在日韓国・朝鮮人(以下在日と称する)を対象にして多文化サービスを行っている図書館を対象とし、現在の問題点を把握し、改善方策を提案することである。特に在日を選択した理由は以下の3つにある。一つは、日本に在住している外国人の中で在日が占める比率が一番高いからである。二つ目は、日本の多文化サービスの始まりと在日に深い関係があるからである。三つ目は、在日の構成メンバーが非常に多様という点である。
  在日は、歴史的な理由によって日本に残った、言わばold-comer集団と70年代から政治的、経済的理由で渡日してきたnew-comer集団の2つに大きく分けることができる。また、この中でも年齢、世代、滞在年数、居住資格などによって異なる性格を持つ様々な集団を形成している。だから在日の様々な集団を観察すると、日本に居住している外国人の現在と将来に関わる問題と状況、およびこれを解決するために必要とする情報などを類推できると思った。

(2)研究方法
  本研究は図書館訪問調査を中心に行った。調査対象にはそれぞれ異なる在日集団を対象にしている東京都荒川区のA図書館(旧コリアンタウンに位置する)と新宿区のB図書館(新コリアンタウンに位置する)を選択した。訪問調査をする前に、A,B図書館の関連資料を収集し、分析した。現在、それぞれ2回目の図書館訪問調査中である。訪問調査は、以下の3段階で行っている。まず、利用者が初めて図書館を訪問し、利用したときに感じる感想を基にして、サービスの実態を把握(A図書館は 在日3世、B図書館の場合は居住2年になった韓国留学生に同行し、彼らの意見を記録、活用した)し、第2段階で、担当司書の館内案内を受け、同時にインタビューを行い、実際に行われているサービスを把握した。第3段階は、筆者が館内に長時間滞在し、図書館を利用している利用者の特徴および利用パターンを把握する。(現在3段階を進行中)

(3)得られた(予想される)成果
  A,B図書館の周辺にはハングルで書かれた店の看板が並んでいるし、また、韓国語で会話をする人々にもよく遭遇するため、まるで韓国の街を歩いているような気持ちになる。これらの特徴のため、A,B図書館は、直接的・間接的に、早い時期から多文化サービスに関心をもっていたし、相当な量の在日関連資料を収集していた。しかし、A,B図書館は蔵書選択の問題、資料検索の問題、館内案内文の不足および欠如、サービスに関する宣伝の不足などの問題を抱えていた。また、利用者に関する研究が不足しており、利用者からのフィードバックの過程検討が十分に行われていなかった。
  このため、本研究では実際行っている多文化サービスの現状を把握することにも意味があるが、コリアンという立場にある著者が、利用者の一人として、図書館を利用し、現状を把握し、改善方策を提案するというフィードバック過程の実践としても意義があると思う。

No. 12
 氏 名 
濱田幸夫
 所 属 
筑波大学大学院図書館情報メディア研究科
発表題目
都道府県による市町村立図書館支援の現状と課題
発表要旨
(1)研究の目的
  近年の生涯学習社会の進展に伴い、国民は図書館サービスの充実に高い期待を持っている。しかし、一方で、日本の公立図書館サービスの現状は必ずしも十分でなく、さらに、地方財政の悪化等により予算や職員の削減を余儀なくされており、特に住民への直接サービスの拠点である市町村立図書館において影響は甚大である。このような状況の中で、良質なサービスを実施し、コストパフォーマンスの高い運営を実現するには、都道府県立図書館等による効果的な支援活動や助言が不可欠であり、多くの都道府県において各種の市町村立図書館支援策が実施されている。
  この都道府県による市町村立図書館の支援方策の現状と充実要望等を調査・分析し比較することによって、公立図書館が抱える課題や効果的な支援方策を検証し、公立図書館の改善方策を提言することを目的とする。

(2)研究の方法
  各都道府県立図書館及び7県の全市町村立図書館(図書館未設置市町村については教育委員会社会教育担当課)宛に郵送調査を実施する。調査結果について、各都道府県ごとの支援策の比較、各図書館が受けている支援策と図書館活動の改善効果との関係の検証等を行うことにより、効果的な支援方策のあり方と市町村立図書館の活動の現状、改善効果等の関係について考究することを予定している。
  今回は、都道府県立図書館、市町村立図書館、今後公立図書館を設置しようとする市町村教育委員会に対して実施した市町村立図書館支援策の現状や課題、その効果や改善方策、新たな図書館設置を実現する際に期待されている援助方策等に関する調査結果について報告する。

(3)得られた(予想される)成果
  市町村立図書館の活動は市町村による財政、人員の確保により実施されることが原則である。しかし、近年の地方財政の現状や市町村規模を勘案すれば、各市町村が独自に様々なサービスを独力のみで実施することは、効率性やサービスの質の確保の観点から非効率であり実現困難である。このため、上記調査の検証により都道府県による支援策で市町村立図書館の活動改善に効果的な支援項目、具体的な支援の方法等を特定できる。
  また、市町村が新規に図書館を設置する場合には、図書館設置準備としての蔵書構築、活動体制整備、住民向け広報など、多岐にわたる活動を効果的に行うための専門性の高い助言を受けることが良質な図書館サービスの開始に不可欠である。図書館未設置市町村への調査結果の分析により、図書館設置にあたっての効果的な支援方策を検証できる。
  さらに、支援の現状分析と市町村立図書館が希望する支援策を比較することにより、効果的な市町村立図書館支援方策のあり方、図書館関係団体等との連携した支援方策のあり方等について提言を行うことができるものと考える。

No. 13
 氏 名 
長澤多代
 所 属 
長崎大学 大学教育機能開発センター
発表題目
大学の教育活動を背景にした教員と図書館員の連携構築:ソーシャル・キャピタルの概念的枠組みを用いたアーラム・カレッジのケース・スタディ
発表要旨
(1) 研究の目的
大学図書館では,図書館利用教育や文献利用指導として,学生が効果的に情報を探索する能力の育成を図ってきた。だが,従来の図書館利用教育や文献利用指導によって育成できる能力は情報を探索する能力という情報リテラシーの一部の能力であることが指摘できる。大学教育における情報リテラシー教育のあり方を検討するには,探索して得た情報を評価し,整理し,表現する能力の育成を図る体系的な情報リテラシー教育と図書館の関係を検討することが重要になると考えられる。大学教育の中で体系的な情報リテラシー教育を実施するために,図書館ができることとして,次の2つがあると考えられる。
① 図書館員が,情報探索だけでなく,情報整理,情報表現を含む体系的な情報リテラシー教育を実施する。
② 図書館員による情報探索の指導と,教員による情報整理,情報表現の指導を連携させる。
本研究の目的は,上記の②に焦点をあて,体系的な情報リテラシー教育を実現するために,図書館員が教員とどのように連携しているのか,また,両者の連携構築に影響を与えている要因は何かを明らかにすることにある。

(2) 研究方法
本研究の方法は質的なケース・スタディであり,理論的枠組みにはソーシャル・キャピタル(社会関係資本)を用いる。本研究は解釈的なケース・スタディである。ケースの抽出法は目的的サンプリングによる。教員と図書館員の連携について最大の多様性をもったサンプリングを行ない,米国のアーラム・カレッジを抽出した。アーラム・カレッジ関係者への聞き取りによって得られた情報,情報リテラシー教育の直接観察によって得られた情報,アーラム・カレッジ及びアーラム図書館関係の内部資料を含む文献データを,質的な内容分析法によって分析する。

(3) 予想される成果
 本研究によって,教員と図書館員の連携構築に影響を与えた要因と要因間の関係を明らかにすることができる。その中で,先行研究が提唱した次の研究課題を検証することもできると考えている。
① 図書館が教育計画の一部として機能することが,教育効果を高め,その結果,両者の連携を促進するのではないか。
② 科目の教育効果の観点から見直した図書館の支援計画が,教育効果を高め,その結果,両者の連携を促進するのではないか。
③ 特定の主題や課題に関連した支援を提供することが,教育効果を高め,その結果,両者の連携を促進するのではないか。
④ 図書館員が図書館の外に出て支援を実施することが,教育効果を高め,その結果,両者の連携を促進する要因となるのではないか。
⑤ 希望する教員個人への支援が,教育効果を高め,その結果,両者の連携を促進するのではないか。
⑥ 図書館の建物内に多くの教室を設けることが,教育効果を高め,その結果,両者の連携を促進するのではないか。
⑦ 大学の経営者が図書館の支援活動に協力することによって,教育効果を高め,その結果,両者の連携を促進するのではないか。

No. 14
 氏 名 
種市淳子、逸村裕
 所 属 
種市淳子(名古屋柳城短期大学図書館)
逸村裕(筑波大学大学院図書館情報メディア研究科)
発表題目
短期大学図書館における目次を付与したOPACの情報探索行動
発表要旨
(1)研究目的
  本研究では、学生の情報探索行動調査を継続して行い、その対応を検討している。2003年と2004年のプロトコル分析法による調査では、OPACの検索行動にサーチエンジンの探索パターンが影響を及ぼしていること、Webの探索は視覚的要素と経験的要素をもとに結果のフィルタリングが行われていることを示した。2005年のタイムサンプリング法を用いた調査では、科学や健康分野の質的判断が要求される課題に対しても、サーチエンジンの結果上位にランキングされる情報が過信される傾向を明らかにした。また今後は、さらに情報行動変容が進むと推測されることから、継続的な調査の必要性を指摘した。
  そこで本調査では、短期大学(以下、短大)図書館を対象に、学生のOPACによる情報探索行動を調査した。調査に用いたOPACは、検索のアクセスポイントとして図書の目次情報が付与されており、幅広い用語からの検索が可能になっている。短大生の検索リテラシーに応じて利便性を高めたOPACは実際どのように利用され、サーチエンジンの検索に慣れた利用者はOPACでどのような情報探索を行っているのかを検証することが本調査の目的となる。

(2)研究方法
  第一に、OPACの利用実態を把握するために、2004年6月〜2006年7月までの26ヶ月間におけるOPACのアクセスログを採取して分析し、全体の利用傾向、探索パターンの特徴、検索語がヒットした項目の内訳を調べた。
  第二に、2006年8月に短大生17人を被験者として、課題を用いたOPACの検索過程を調査した。そこでは、サーチエンジンの利用経験によるOPAC探索行動への影響を視点におき、被験者をサーチエンジン利用歴2年以下、3〜4年、5年以上に分けて、それぞれの探索パターンや行動特徴を分析した。

(3)得られた(予想される)成果
  ログ分析の結果からは、1)検索語は1語か2語で行われるものが全体の9割以上を占める、2)検索語には自然語の使用が目立ち、全体の8割は単語を使用したものであるが、文節が語に含まれる割合が年々増加している、3)検索語がヒットした項目の内訳は、目次が52.0%、書名26.3%、件名12.4%であり、探索パターンの特徴との関連により目次にヒットする割合が高いことが示されている。
  検索実験の結果からは、1)検索語は2語程度の組み合わせで行われるパターンが典型であり、自然語が多用されるために目次にヒットする割合が高い、2)結果の評価と判断は主に目次の文脈をもとに行われている、3)OPACの検索方法とサーチエンジンによる検索方法の区別はほとんど意識されていないことが判明している。またサーチエンジン利用歴の差による比較では、1)本調査で示されたOPACの探索パターンの特徴は、サーチエンジン利用歴2年以下、3〜4年、5年以上のどの層にも同様に見られる、2)サーチエンジンの利用経験は、OPAC検索において、ゼロヒット後の対処行動に影響を与えていることが明らかとなった。
  さらに、サーチエンジン利用歴の長い被験者に対して詳細な分析を進める予定である。

No. 15
 氏 名 
河村俊太郎
 所 属 
東京大学大学院教育学研究科
発表題目
蔵書構成の分析による東京帝国大学心理学研究室図書室の歴史的研究
発表要旨
(1)研究目的
  現在、大学図書館は電子化、情報公開といった流れの中で、自らの役割、歴史をもう一度見返す必要が生じている。そこで本論文では、戦前、特に1900年 頃から1941年までの大学図書館がはたしてどのような役割を持っていたのかということを解明し、現在の大学図書館の原型を見つけ出すことを目的とする。
  特に、全学的な附属図書館ではなく、大学図書館の利用者である教官が利用者であるとともに管理者でもあった研究室図書室のうち心理学研究室図書室を対象と し、大学図書館における重要な要素である蔵書構成という視点から取り扱う。

(2)研究方法
  研究室図書の購入決定者である教官が異なる3つの時期を対象として、各時期に購入された図書が心理学の一般的な研究動向、構成員の研究内容、心理学研究室での教育とどのように関係しているのかについて検討する。
  まず、対象とする3つの時期について、研究室に残された図書購入台帳及び現在心理学研究室に残されている蔵書に押されている蔵書印を調査し蔵書の購入年 の調査を行う。そして、各時期に購入された蔵書の研究室における分類、出版国についてのデータを取得する。次に、これら3つの期間に購入された蔵書を,世界と日本の心理学の研究動向と量的に比較する。世界の心理学の動向については、研究室のモデルとなった分類を行っている世界的な心理学の抄録誌である Psychological Indexに掲載された文献数を、日本の心理学の動向については、戦前の日本心理学会の発表数を用いる。そして、世界と日本の心理学の動向と心理学研究室の蔵書構成の違いを、学生への教育、そして3つの時期それぞれにおける心理学研究室の教授と助教授の主な研究分野との関係から考察する。

(3)得られた成果
  教授だけでなく助教授の研究分野の影響も研究室開設初期にはあったが、時代がたつにつれ、世界的な心理学の傾向と分野ではほぼ一致していった。ただし、 ドイツの心理学の影響は常に強く、その点では日本の心理学の動向を反映していたが、日本の心理学に最も特徴的な感覚・知覚を扱った図書はそれほど多くないので、日本の心理学の動向とはあまり関連することはなく、蔵書構成の意識は海外、特にドイツの研究動向に向けられていたと考えられる。そして、教科書や概 論書といった図書が戦前を通してかなり多く購入されていた可能性が高く、学生が自学を行うための図書構成は早くから意識されていたと考えられる。すなわち、心理学研究室図書室は当初は教授、助教授の研究機能も担っていたが、徐々に教官の研究機能よりも学生のための教育機能をより重視する役割を担う図書室 となっていったと結論できる。
  このように研究室図書室が教育機能が中心となった理由は、教授が自分の研究に関する図書を自室に置こうという意識が高まったこと、そして見計らい本を持ち込んでいた書店の影響があると考えられる。

No. 16
 氏 名 
田村俊作、三輪眞木子、齋藤泰則、越塚美加、池谷のぞみ、斎藤誠一
 所 属 
田村俊作(慶應義塾大学)
三輪眞木子(メディア教育開発センター)
齋藤泰則(明治大学)
越塚美加(学習院女子大学)
池谷のぞみ(Palo Alto Research Center)
斎藤誠一(千葉経済大学短期大学部)
発表題目
公共図書館ビジネス支援サービスの利用とサービス体制
発表要旨
(1)研究目的
  本研究は、「公共図書館の利用者が、図書館で得た知識をどのように活用しているのか、また、図書館は利用者とその利用に関するどのような理解に基づいてサービス体制を構築しているのか」という課題について、ビジネス支援サービスを対象に、特に利用者と図書館員とが相互をどのように理解しているのか、それぞれが相互作用の中で得た知識をどのように共有・活用しているのか、という観点から解明することを目的としている。昨年度の研究大会での発表「公共図書館利用者の知識共有メカニズム」における概念枠組みの提示に続き、本発表では、ある県立図書館において実施した利用者および図書館員に対するインタビュー調査の結果を報告する。

(2)研究方法
  対象とした県立図書館は、活発なビジネス支援サービスを展開していることで知られている図書館である。本図書館において、2006年9月に3日間に渡り、利用者5名および担当図書館員5名に対してインタビューを行った。利用者はすべて図書館側の紹介による。それぞれ具体例叙述法(critical incident technique)をベースに作成した調査票を用いる半構造化インタビューとして、利用者に対しては、最近の図書館利用に関連して、利用に至る経緯、利用の詳細、利用によって得た情報の活用、図書館のサービスに対する意見などを尋ねた。図書館員に対しては、最近自身が行ったサービスに関連して、利用者の要求、それにどのように対応したか、結果はどうだったか、館内への結果の報告、ビジネス支援サービスおよびその提供体制に対する意見などを尋ねた。インタビューはすべて録音し、後日にテープ起こしをした。また、通常の質的分析の手順に従い、利用者による図書館の利用とその結果、および提供体制を中心に、録音データのコーディングを行っている。

(3)得られた(予想される)成果
  利用者は図書館をどのように役立つ存在と捉え、実際に役立てているのか、一方図書館は、自らが利用者にとってどのように役立つ存在となっていると捉えているのか、また、サービスの提供経験を生かして、役立つサービスを提供するためにどんな体制を作りあげているのか、サービスに対する関係者の認識に食い違いはないのか、といった点について知見を得ることを狙いとしている。利用者については情報探索に関する三輪のモデルを分析枠として用いている。図書館利用の前後の行為も尋ねて、どのように役立ったのかを理解するように努めた。図書館については価値の共同生産とその体制という観点から分析を進めている。また、行為、知識といった面だけでなく、信頼感や意欲といった情緒面も分析の重要な観点である。

No. 17
 氏 名 
石田栄美
 所 属 
駿河台大学文化情報学部
発表題目
複数の分類手法の組み合わせによる図書自動分類の可能
発表要旨
(1)研究目的
  テキストの自動分類研究では、これまで様々な手法が提案されてきており、とくにこの10年間に飛躍的に自動分類の性能は向上したといえる。それらの研究成果の中で、Support Vector machine(SVM)やナイーブベイズなどいくつかの代表的な手法が有効であることが明らかになっている。しかしながら、特定の手法が常に有効であるということではなく、対象とするテキストの特徴や分類の目的によって、有効な手法が異なっていることもまた明らかになっている。
  これまで図書に対する分類を行ってきたが、先の研究から、図書を図書館の分類法に基づく分類記号に分類するには、精度の高い分類を行うことが難しいということが明らかになっている。これは、データの特徴として、カテゴリの種類が多数あること、各カテゴリに属する学習用データが少ないこと、属する学習用データ数に偏りがあることなどが挙げられ、それらが分類を難しくする原因として考えられる。これらの特徴は、新聞記事や論文の抄録を対象にした場合とは大きく異なっている。一般的に性能がよいとされているSVM手法を用いても、高い性能が得られていない。SVM手法の性能がそれほど高くない理由としては各カテゴリに属する学習用データ数が少ないためと考えられるが、この結果からも、各分類手法には弱点があり、対象とするテキストの特徴によって、有効な手法が異なることがわかる。そこで、各手法の弱点を補い合うために、複数の分類手法を組み合わせることによって、より性能の高い分類が行えるようになるのではないかと考えた。本研究では、日本語の図書のデータを対象とし、日本十進分類法の分類記号(カテゴリ)に分類するさいに、複数の分類手法の組み合わせた分類手法を提案する。

(2)研究方法
  研究は以下のような方法で行う。
  まず、各手法単独で図書の自動分類実験を行い、実験結果から各手法の特徴や弱点を分析する。たとえば、図書の分野によって適した手法があるのか、用いるテキストの情報によって適した手法があるのか、カテゴリに属する学習用データの数や偏りなどによって適した手法があるのかなどを分析する。これにより、図書の分類においては、どのようなアプローチに基づく手法が適切かを検討する。
  次に、これらの分析結果をもとに、各分類手法の弱点を補えるような分類手法の組み合わせ方法を提案する。分類手法の組み合わせには、それぞれの手法で分類した結果を投票して、最終的な分類結果を出すという方法が考えられるが、実験によって、どのような組み合わせ手法が有効かを検討する。

(3)予想される結果
  各分類手法による分類実験結果と実験結果に基づく分析結果を示し、それらの結果をもとに有効な分類手法の組み合わせ方法を提案する。その提案に基づいて、新たに実験を行い、その有効性を示す予定である。

No. 18
 氏 名 
上田 洋、村上晴美
 所 属 
上田洋(大阪市立大学 大学院工学研究科)
村上晴美(大阪市立大学 大学院創造都市研究科)
発表題目
Amazon著者名検索結果の同名異人毎への自動分類
発表要旨
1. 研究目的
  図書館では著者名典拠を用いて同名異人の識別を行う著者名典拠の仕組みがある。著者名典拠とは、同一著者を統一的に扱うために著者名の標目形のほか、その形の根拠となった情報源や他の著者と識別するための情報(生没年や職業・専攻・著作分野など)、書名などの情報を記録したものである。著者名典拠の作成や著者標目の付与は図書館員が人手で行うために、その精度は非常に高いが、人手で行うがゆえにコストも高い。またそのコスト高のために著者名典拠を導入・維持できない図書館も数多く存在する。
  一方、多くの書籍検索サイトでは著者名典拠の仕組みはない。たとえば、Amazonでは、検索された書誌情報の「著者名」を選択すると、著者名の文字列で検索するため、同名異人を含む別人の書籍が検索される。
  他方、情報科学の分野においては、クラスタリング手法を用いて膨大な文書を類似した文書群に分類する研究が行われ、部分的に実用化している。我々は、著者名典拠の仕組みを持たない書籍検索システムにおいて、クラスタリング手法を用いて書籍を同名異人毎に分類できるのではないかと考えた。
本研究の目的は、著者名典拠の仕組みを持たない書籍検索システムにおいて、著者名検索時に同名異人を判定し、同名異人毎に検索結果を分類して表示する手法の開発である。

2. 研究方法
  本研究では、利用者の著者名入力に基づき、Amazon和書検索を行い、検索結果の同名異人を判定し、同名異人毎に検索結果を分類して表示するシステムを開発する。同名異人が著者・編者として存在する人名を検索質問として使用し、Amazon和書の検索結果を取得し、同名異人毎に分類する。分類した各クラスタを分離性能、精度の尺度で評価する。
検索対象として、Amazon和書データベースを用いることにした。Amazonは日本で最もよく使われる書籍サイトの一つである。Amazonの開発者向けサービスであるAmazon WebServiceを用いることにより、検索結果の書誌情報を一度に効率良く取得することができる。今回は、Amazon Web Serviceで取得できる情報の中から、書名とタグ(カテゴリーデータ)を利用する。
  同名異人への分類手法として、今回は非階層型クラスタリングの一種である単一パス法を用いる。

3. 予想される成果
  Amazonの書名とカテゴリーデータ、単一パス法によるクラスタリング、という簡単な組み合わせを用いて、どの程度Amazonの著者名検索結果を同名異人毎に分類できるかを明らかにする予定である。

No. 19
 氏 名 
大前富美、杉本節子、北克一
 所 属 
大前富美(大阪市立大学大学院創造都市研究科都市情報学専攻)
杉本節子(大阪市立大学大学院創造都市研究科都市情報学専攻)
北克一(大阪市立大学大学院創造都市研究科)
発表題目
がん対策基本法制定後の医療情報:患者と看護師の情報ニーズ
発表要旨
(1)研究目的
  2006年6月15日、がん対策基本法が制定され、2007年4月1日に施行されることになった。その基本理念の一つとして「がんの克服を目指し、がんに関する専門的、学際的または総合的な研究を推進するとともに、研究成果を普及・活用し、発展させること。」が掲げられ、法施行を前にして国立がんセンターがん対策情報センターが平成18年10月から業務を開始した。これは2005年に8月に出された「がん対策推進アクションプラン2005」に沿って進められてきたものである。このプランでは「国民・患者のニーズに応じた対策の重点的推進を図るためのがん対策基本戦略」が構築され、「国民・患者のがん医療に対する不安や不満の解消を推進するとともに、現場のがん医療水準の向上と均てん化を図るためがん対策に係るがん情報提供ネットワーク」の構築が提案されている。本研究では、がん対策として患者への情報提供が主要な課題とされていることに注目し、患者及・親族および看護師の情報ニーズに注目し、考察を行った。

(2)研究方法
  昨年度に実施した公開シンポジウム「これからの医療情報を考える」(大阪市立大学創造都市研究科主催;2006年12月)における報告、質疑、討議の内容分析から、患者・家族等における求められているがん医療情報の内容分析を行った。また、医療者の中でも特に患者サイドにいることの多い看護師が患者の情報ニーズに対してどのような関心をもっているかを、医中誌Web版よりデータ抽出を行い、検討した。

(3)得られた(予想される)成果
  がん対策情報センターが開設され、広汎な情報提供機能が遂行すべき課題として取り組まれていくであろうが、しかし、センターのみで充足するわけではなく、あくまでセンター機能とモデル機能としての役割が大きいであろう。患者や家族、医療者にとっても、身近な機関での情報提供をうけるということが必要であろう。統計情報や医学情報など量的な信頼性を必要とするものは、センター機能での対応が必要であるが、相談業務など、個別性の高いものについては、プライバシーの保持に配慮しつつ、ローカルな対応が必要だろう。患者については、受診医療機関で相談できるといった体制が必要だろう。医療者についても、大学病院の医師以外は、医療情報入手の方法が保障されている割合は決して高くない。特に看護師にとっては、二次資料データベースへのアクセスが職能団体(日本看護協会)が保障しているが、原報入手方法が限られているため、容易に入手できる環境とは言いがたい。医療職に対しても、現行の図書館や、情報提供機関がすべき課題はある。これらの課題解決への第一段階として、患者・家族及び看護師の情報ニーズと情報入手の問題点をまとめた。

No. 20
 氏 名 
仁上幸治
 所 属 
筑波大学 図書館情報メディア研究科 博士後期課程在学中
発表題目
図書館利用者プロファイルの再検討 :情報探索支援システム設計のための概念モデル
発表要旨
(1)研究目的
  大学図書館のレファレンスサービス現場で、学部生・大学院生・教職員の利用者に日々応対していると、なぜ情報探索が自力でできないのかという疑問を抱えてしまう。データベースを上手に活用することがなぜできないのか、どこで躓いているのか、どんな知識と技能が不足しているのか。そして、その対策を考えようとすれば、どんな支援システムがあれば彼らが躓かないで済むのか、がわかるはずである。これらが明らかになれば、図書館を含む大学の情報関連部署において、情報探索支援システムをどう改善すればよいかがわかるに違いない。大学における教育研究の質的向上に寄与するため、図書館員の立場から従来の図書館利用者プロファイルの考え方を再検討し、実態に即した情報探索行動モデルを構築してみたい。

(2)研究方法
  まず、情報探索行動モデルについて従来の考え方を整理し、利用者プロファイル研究の到達点を確認する。次にILL複写取寄せ申込書の中から論文検索における検索失敗事例の統計解析を行い、全般的傾向を抽出する。さらに、個々の検索失敗事例について総合的な質的分析を行い、レファレンスサービスの体験と突合せながら検索失敗原因についての仮説を得る。最後に、仮説モデルの有効性を検証するべく、既存の、あるいは独自の統計やアンケート、インタビューなどを通じて、考察を深めていきたい。

(3)得られた(予想される)成果
  仮説をもとにプロファイルデータ項目のうち不足している点、追加するべき点を発見する。その結果、従来の「動機」のうちの表面化されなかったホンネの部分や、情報リテラシー教育の視点から考察される「支援期待度」という新しい項目が必要である点などが明らかとなる。これらの概念の導入により、利用者研究と利用者教育のあいだに接合点を設定することができれば、ホームページ上のナビゲーションの階層化、多様化、複線化、そして、個々の利用者にとっての、個別化、最適化などのサービス向上策が実現されることが期待できる。

No. 21
 氏 名 
寺井仁
 所 属 
名古屋大学附属図書館研究開発室 助手
発表題目
ハイブリッドな情報環境における情報探索行動に関する研究
発表要旨
(1)研究目的
  今日,高速なネットワーク環境やマルチメディアの普及等に伴い,大学図書館ではこれらの情報環境への対応が急務となっている.これに対し,大学図書館は,学術情報の拠点として物理的情報源と電子的情報源が補完的に結びついた「ハイブリッドライブラリ」の構築を目指さしている.
  一方,これらの情報工学的な側面に対して,利用者が,どのように複数の情報源やそこに含まれる情報を活用しているのかについての調査・研究と,その知見に基づいた情報環境の構築もまた重要な側面であり,ハイブリッドライブラリを支える基礎研究としても位置づけられる.個々の情報源を対象とした利用者の選好,情報探索行動,学習成果等についての研究は国内外に散見される.しかしながら,より日常的な,複数の情報源が混在した環境において,人がどのように情報探索を行い,そこにどのような問題を抱えているのかについての実証的な検討はほとんど行われてきていない.
  本研究では,大学図書館という物理的・電子的情報源が混在した環境において,人が如何に情報源にアクセスし,そこから情報を取得しているのかについて,実証的に明らかにする.また,情報要求を生み出す目的の性質の違いが情報探索に与える影響についても検討する.

(2)研究方法
  大学図書館を仮想的な実験室と捉え,物理的・電子的情報源の双方が自由に利用可能な日常的環境における利用者の情報探索活動を実証的に検討する.
  実験では,被験者に「レポート課題」を与えた上で,図書館内での自由な情報探索(書籍,OPAC,Web)を許した.時間は90分間で,前後に被験者の知識状態を測定するための事前課題と事後課題を行った.また,目的の質が情報探索に与える影響を検討するため,レポート課題の目的(明確な目的/曖昧な目的)を操作した.被験者は大学生12名(2群6名ずつ)である.課題解決中の被験者の情報探索行動を1)発話プロトコル,2)頭部ビデオ映像,3)PCの操作記録,のデータを基に分析を行った.

(3)得られた結果
  情報源の利用に関しては,12名中4名が書籍を利用することがなく,内2名はOPACでの書籍検索は行ったが,書籍を直接利用しなかった.
  次に,情報探索活動の推移について分析を行った.分析では,被験者の行動(レポート,Web,OPAC,書籍,その他(移動)に対する行動としてコード化)を,前半・中盤・後半の3フェーズに分割し検討した.その結果,複数の情報源を活用しているように見える被験者の多くが,各フェーズでは,Webもしくは書籍のどちらかに利用が偏っていることが示された.
  以上の結果から,1)たとえ高度に構造化された物理的情報源である書籍が身近にあり,自由に利用可能な環境である図書館内であったとしても,必ずしも書籍を活用するわけではない,2)情報探索のプロセスにおいて情報源の利用に偏りが認められる,の2点が明らかにされた.
  現在,目的の質の違いが情報探索に与える影響について分析を進めるとともに,情報探索行動の推移について,発話プロトコルを用いたより詳細な分析を行っている.

No. 22
 氏 名 
松原貴幸
 所 属 
東京大学大学院教育学研究科
発表題目
1968年省令科目改訂をめぐる歴史的検討
発表要旨
(1)研究目的
  本研究では,1968年に行われた図書館法施行規則の改訂の歴史的な位置付けを再検討することを目的とする。これまでのところ,1968年改訂の経緯については,当時の文部省社会教育局社会教育官の中島俊教による改訂の説明や,1988年度全国図書館大会における,当時日本図書館協会教育部会長であった岡田温の発言をもとに解釈されている。しかし,そこで述べられている「38単位構想」や「上級司書」についての歴史的系譜は十分に明らかにされてきたわけではなかった。1967年文部省に設置された「司書講習等の改善に関することについての会議」と1968年改訂前後に展開された二つの試案,図書館学教育改善委員会(1965)・図書館学教育基準委員会(1972)によるものとのつながりを検討することで,1968年改訂を単なる講習の改善という位置付けから図書館学教育という大きな文脈に位置づけることを試みる。

(2)研究方法
二つの委員会における議論と成果,試案をめぐる図書館界の議論,文部省における議論を取りあげ,文献検討による調査を行う。それによって,3つの委員会・会議の成立過程に関する歴史的検討を行う。

(3)得られた(予想される)成果
  深川恒喜を委員長とする図書館学教育改善委員会では,大学の専門課程における図書館学教育と司書講習のあり方について考えていた。前者については館種の違いを反映したカリキュラム案を示すに至っている。後者については,問題提起にとどまっていた。委員会後の館界の議論は,委員会の提案した科目案における「コア・カリキュラム」の定義をめぐる問題と講習の存廃をめぐる議論に加えて,司書の等級付け(グレード制)が現れる。深川にかわって教育部会長に就いた岡田温は図書館学教育改善委員会の継続的議論と講習の改善に関する問題に取り組んでいた。
  岡田温を議長とする「司書講習等の改善に関することについての会議」では,講習を継続することの意見の一致を得たのちに,上級司書に対する講習科目案と現行司書の講習科目改善案を示している。ここでは,司書よりも高度の知識,判断力,作業能力を持つとされた上級司書の考え方には二つの視点が見られた。待遇や昇進に関わるものと,館種に関わる視点である。
  こうしたグレード制の関わる議論は,続く室伏武教育部会長による図書館学教育基準委員会における,学歴に基づくグレード制,講習廃止につながっていった。
  上記の流れの中で,大学の専門課程での図書館学教育,講習制度,司書のグレード制についての議論がどのように関係づけられていったかという点が明らかにされる。